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栗夫
「やあ浜中さん、今日はトマトが特売だよ」
「よし、トマトパスタ作ろう」
「まいどあり!」
浜中栗夫は40代太めのサラリーマン。
横浜在住のバツイチで次の恋を探している。
職場近くの迷宮線、兼沢文虎駅東口商店街の八百屋をのぞき、そのあと楽しく散歩。
今日は思いのほか仕事が早く終わり、上司の許可を取って町に繰り出している。
時刻は午後2時。程よい温かさ。
今年の春の流行はターコイズブルーとローズピンク。
聞いただけでアイスが食べたくなる色だ。
商店街ではそこかしこに気の早い鯉のぼりが泳いでいた。
もうすぐ5月の連休だ。
栗夫は鯉のぼりが全部、今が旬のサヨリちゃんだったらな、とか妄想した。
彼は魚料理が大好き。
兼沢区は海に面しているので、魚がめちゃくちゃ美味しいのだ。
同じ横浜でも内陸の方の区ではこうはいかない。
彼は料理が趣味。
栗夫は流行色で着飾った女性のコスプレ屋さんに遭遇した。
多分、ゴスロリとかいうやつだろう。
兼沢区を通る赤い電車、迷宮線はスピードが速く快適で、すぐ都心にアクセスできる。
品革駅から出発するとき、ドレミファソラシドと発言する、なかなかかわいい奴だ。
文虎駅の一つ隣、六景駅はモノレールやテーマパークがあって、話題になっている。
兼沢区は高齢者の街という顔も持っていたが、連休ともなれば若いおしゃれさんは珍しくなく、そのギャップがまた面白いのだった。
午後二時半、栗夫は今晩のトマトパスタに合わせるのはトマトコロッケか、具沢山シーフードトマトスープか、もんもんと考えながら、文虎駅西口バスターミナル付近を歩いていた。
最後に両方にするという結論が出て、スーパーハトムギの前でふと見上げると、頭上から何かが降ってくる。
栗夫は度肝を抜かれた。少年ではないか。
突風が吹くと少年は絨毯になって飛ばされていった。
「大変だ」
栗夫は絨毯を追いかける。
バスターミナル周辺は店や銀行が囲んでいる。
たくさんの横断歩道があり、まっすぐ絨毯を追いかけるのは困難だ。
栗夫は信号を無視して横断歩道をいくつも走った。
絨毯は上空で風向きが変わると、たびたび流されてしまう。
追ってる栗夫は来たところをまた戻ったりして、急停車したドライバーたちにどやされた。
しかし、絨毯を見失うわけにはいかない。
洋菓子店の前で絨毯の真下に追いついたと思ったら、それはやおら少年に戻ってまっすぐ落下してきた。
栗夫はトマトとカバンを放り出して、上を見ながら右往左往した。
自分はこの距離でキャッチできるのか。
栗夫は次第に千鳥足になり、地上で無駄にきりもみし始める。
高所恐怖症。
その時、こめかみに誰かの肘鉄がめり込んだ。
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