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親に連絡しないで
職場から仕事着のまま一旦外出していた仁志は、飛ばされた絨毯の下に滑り込んだ。間一髪少年を抱きとめてから、地面に下ろした。
「君、大丈夫?」
少年は黙っていた。
「僕は崎守仁志。ジョーカー隊員だ。君のお名前は?」
「幸助」
「おうちには帰りたいかい?」
答えはなかった。
「おいそこ、ちょっと待て!」
二人のやり取りに茶々が入った。
仁志は肘鉄で撃沈した中年男性を振り返った。
しぶとく起き上がって歩み寄ってきた。
強靭な生命力を感じる。
中年男性は言った。
「あんた、どういうつもりだ」
「そこにいると邪魔―――いや、キャッチは僕が適任だと思ったんです」
「攻撃することないだろう」
「すみません。手が滑りました。あなたはどなたですか」
「浜中栗夫だ。残念だがその子は知らない」
「そうですか」
栗夫はスマホを取りだした。
「とりあえず親御さんに連絡しよう」
仁志が止める。
「いけません」
「どうして」
「子供が問題を起こすと親に責任を取らせる文化は、子供に死ねと言ってるのと同じです」
栗夫は次の選択肢を上げた。
「じゃあ、警察に連絡しないと」
「欧米ではそれでいいかもしれませんが、日本の警察は大事な機関と連携していません。それなのに一般人がまず警察を発想するのは日本教育とメディアに問題があるからです」
栗夫はびっくりしているようだった。
「どうするんだ」
「どうしたらいいと思いますか?」
質問を質問で返すなと言うが、この主張で大勢を引っ張る人物はまだ出ていない。
怒りで相手を変えることはできない。
栗夫は仁志に答えた。
「おれは無関係だよ」
「分担を果たさない人が子供の親の分担を考えるのはおかしい」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ。わかんないよ」
「わからないのはメディアが原因だと思いますがーー、幸助君はジョーカーで一旦引き取ります」
仁志はジョーカー、横浜本部隊員。若手の20代。
人間にもそうだが、とにかく生き物に好かれる。
見た目のせいばかりではないようだ。
ジョーカーは武装福祉組織。シェルターも多く有している。
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