月曜日の救世主

1/1
前へ
/15ページ
次へ

月曜日の救世主

 由衣は美咲にデビューもしてない自作の音楽を無理やり売りつけられ、信じられない額を巻き上げられた。  美咲があまりにも怖かったため、由衣は大号泣して迷宮線に揺られ、自宅に帰る。  美咲はバイクではカッコよかったが、そのまま由衣を置いて行ってしまい、電車賃すらくれないエセ王子だった。  由衣は翌日の月曜日に学校に出勤する。  職員室にCDラジカセがあったので買わされたCDをかけた。  美咲の音楽が流れる。  ♪君を愛すあうあうあうあう  ラブ・ミーあうあう ラブ・ミーあうあう。  「それイタくないですか」  同僚の男性教師がツッコむ。  美咲は美声のようだが、こんなCDいらない。  由衣は悔しくて昨日よりもっと泣いた。  職員室の窓の外には高い青空が広がり、孤高の鳥が誰かに会うために風を裂いていた。  由衣が泣き止んで仕事を始めた頃、職員室に宮間洋子が直々に怒鳴り込んで来る。  「教師は何をやってるの」    由衣が立ち上がって答えようとした時だ。  「うんそうか。あんたの分担は何だ?」  由衣の代わりに誰かが答えた。  驚いたことに、声の主は美咲。  由衣は彼が隣の席について微笑していることに気が付いた。  彼はネクタイを緩めにしめている。  服装も雰囲気もあまりにも職員室に溶け込んでいて、毎年やって来る実習生のよう。  追い出す教員はいなかった。  次に、職員室に加害者親の平山典子が直々に怒鳴り込んで来た。  「教師は何をやってるの。うちの子が加害者にされたんですよ?」  「うんそうか。あんたの分担は何だ?」  美咲は席を立つと由衣の後ろにやってきて、ニコニコ笑って応対した。  洋子も典子も口をパクパクして、金魚のようだった。  そこへ警察が制服で怒鳴りこんできた。  「教師は何をやってるんだ」  声からすると、由衣が警察に通報した時の相手のようだ。  美咲は由衣の前に出て、余裕で応対した。  「職員室には新顔だね。名乗らないと出て行ってもらうよ」  「内田一貴だ。この通り警察手帳がある」  一貴が美咲に警官の証を突き付けた。  全力で暇ですと言ってるようなものだ。  美咲が一貴に訊ねた。  「警察の分担は何だ?」  一貴は叫んだ。  「だって教師が悪いんじゃないか」  「どうしてそう思うの?」  「おれだって元いじめ被害者だ。教師は解決してくれなかった」  「それは教師が悪いんじゃなくて、家庭と警察が伝統的に機能せず、あんたを守らなかったからだ」  一貴も金魚になった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加