二度目の死は涼やかに

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 相原澪(あいはらみお)は、高校の帰りに不運な事故で死んだ。大型トラックと正面衝突して即死というこの上ないくらい明快で単純な事故だ。事故当初、警察は自殺の線も踏んで捜査していたようだが、結論は事故に相違ない。澪が言うには「子猫を助けようとして夢中で飛び込んだら、こうなってたんや」ということなので事故で間違いがない。即死で痛みを感じずに逝ったのが不幸中の幸いというか、せめてもの救いというか、とにかく喜ばしいことではあった。 『それにしても、君がこんなに冷たい人間だとは思ってなかったわ』  太陽にじりじりと灼かれるような日中よりかは涼しげな夜風が頬を撫でた。怨めしそうなこの台詞はもう何度目か。 「仕方ねぇだろ。オレは幽霊が見えちまうんだから」  幼い頃からいわゆる「視える」体質だった。当たり前のように見えるものだから幽霊、お化けと呼ばれる者たちと生活するのが当たり前になり、人の死の先がわかるようになってしまった。人は死んだあとどうなり、どういう段階を経て次のステージへ移行するのか。それは子どもが大人になるのと同じように誰もが上がっていく階段の延長線上にあるものーーそういう認識があるものだから、死そのものが希薄になってしまっているのかもしれない。 『でも! 幽霊になったらデートもできないし、ご飯も食べられへんし、手だって繋げないやん!!』 「いや! だからこうして一緒に散歩してるやないーーしてるじゃねぇーか! 涼めるモンってなんだよ!!」 『うーん』  と、急に立ち止まると考え込むように透き通る顎の下にこれまた透き通った細長い指を置いた。 『触るのがダメなんだから、やっぱり触覚以外のこととか?』  涙を溜めたような上目遣いで見てくるのはズルい。感情がバレないように髪の毛に触れて耳を指で摘まむように触る。 「だったら、耳で風鈴、目で硝子はどうだ? 聴覚と視覚はまだ残っているんだろ?」 『うん。死ぬ前のまま使えるよ。まだね』  妙な言い回しだが、わざと気付かないように目を逸らすと隣を浮遊する澪の手を掴んだ。何とも言えないひんやりとした触り心地のいい感触が指を絡めた。 「だったら行こうぜ、今ならまだ置いてあんだろ。風鈴」
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