二度目の死は涼やかに

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 色を重ねる。一筆一筆時間を忘れるくらいに集中して。額から汗が溢れ落ちたのを合図に手を止めて壁に掛けた時計を見た。 (2時22分) ーーゾロ目だ。  何か起こるのを期待する自分もいたが、予想通り何も起こりはしなかった。溜め息を一つ吐いてもう一度筆を取る。  目を閉じてあの夏の情景を思い出す。浴衣に簪、金魚すくいにスライム、そして風鈴ーー暑いくせにひんやりと冷たいあの夏を。  真っ白なキャンバスが色で埋まるまでにあとどれくらいの月日が掛かるのだろう。遠い明け方を思い起こしながら手を動かし始めた。  白に統一した部屋の中で唯一の空色の風鈴が、音を立てて揺れた。
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