転機の夜――ホテルにて

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 俺は思い付いたそのままを、ヤツへと放り投げてみる。 「――もしかして、おまえ、村木さんのこと狙ってんの?」 「な、な、何言ってんだよっ!」 絵に描いたように分かり易く、ヤツはうろたえた。 「いや、別にいいんだけどさ」  嫌味でもなんでもなく、ヤツと村木さんとなら、なかなかのお似合いだと思った。 ――美男美女というよりは、カワイイ者同士で。 犬に例えるのならば、豆柴とロングコートチワワとの組み合わせみたいだと思った。  デートをしていても、兄妹に間違えられそうだった。 遊園地ではジェットコースターよりも、コーヒーカップかメリーゴーランド、公園の池だったら、スワンボートとかに乗っちゃっていそうだった。  ヤツが向きになって、言い返してくる。 「よくないっ!全然よくない‼それに、狙ってるのは――!」 「だから、俺は違うって。さっき言ったろ?」 「・・・・・・」  狙っているのは――の続きを言おうとしないヤツを見ていて、俺はさっき思ったデートから連想をした。 「おまえさ、こういう所に一緒に行く相手、いるの?」 「え?」  俺は柄にもなく、間接的な聞き方をしたことをすぐさま後悔した。 謹んで、ぶっちゃけて訂正する。 「だから、今、付き合って相手とかっているの?」 「え・・・・・・の、野宮は?」  オイオイ、質問にしつもんを返すのは反則、相手に対して失礼だろうが――と思って、俺は心密かに苦笑した。  別に、ヤツの教育係でもなんでもないし、そもそも今夜は、無礼講のつもりで席を設けた。  そう言えばヤツとはこういう恋愛の話を、いまだかつてしたことはなかったように思われる。  経過報告のようなことは逐一しないにしても、今、付き合っている人がいるとかいないとかくらいは、話題に上ってもおかしくなかった。
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