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『居酒屋はるな』はまだ開店、又は改装して間もないのかも知れない。
五人掛けと小さいながらも白木のカウンターは真新しく、眩しかった。
その上には灰皿は置かれていなかったし、相応しくないと思った。
俺は、ソファーの隣を広く開けた。
ソファーは今、俺が座っている、いわゆるラブシート、もしくはロマンスシートと呼ばれる二人掛け用のが一脚、あるだけだった。
――このホテルの利用客を鑑みれば、納得だった。
端ギリギリまでに寄ってみても、間は大して空かなかった。
まぁ、二人してベッドサイドに腰掛けるよりはマシだろう。
月橋が反対の、やはり端ギリギリに腰を下ろした。
自分でじぶんの頭を抱え込み、しばらくした後でヤツはつぶやいた。
「・・・・・・すまない」
「謝るくらいなら、理由を話せ。わけを。――居眠りの原因に全く心当たりがないってことはないんだろ?」
うつむいたままの月橋に、とてもではないが、「病院には行ったのか?」とは問えなかった。
しかし、ヤツは意外なことを言ってきた。
「原因か・・・・・・原因は分かってる」
すぐに解決出来ることではないのかも知れないが、全く何も分からないよりはいい。
――突破口があるだけ、マシだと思えた。
俺は真剣な、しかし深刻過ぎない言葉を口調を探りながら、月橋へと告げた。
「だったらそれを、少しでも良い方向へと持って行けるように――」
なるべく努力をして、と続けようとした俺を遮るように、ヤツは言った。
「良い方向へだって?無理だ。――ゼッタイに無理だ」
上げた、俺を見るヤツの顔には隠しようもなく、ナニ言ってんだ?コイツという表情がありありと浮かんでいた。
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