決意の夜――居酒屋にて

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 月橋と俺とは、同期入社だった。 同じ課に配属されて、後に互いに浪人も留年の経験もないことが分かり、全くの同い年だと知った。  いや、正確には、早生まれのヤツの方が十か月ほど年下だった。 だからどうというわけでもないのだが――。  二年後、俺は違う部署へと移動になり、さらにその一年後にはヤツもまた、違う課に移った。 その間も連絡を取り合い、月に一、二度会っては互いの近況を肴に酒を飲んだ。  ヤツは強くはないが俺はそこそこに飲めて、揃って、――特に日本酒が好きだった。 美味しいと思われる店を競うように探し出してきては、誘い合った。  この店にだって本当は、こんなことで来たくはなかった。 ハッキリ言って俺のお取っとき、――いわゆる、切り札だった。  しかし今夜、おれがここに決めたのは、飲み物以外を注文しなくていいからだった。 『居酒屋はるな』には、三種類の値段設定のコース以外のメニューは、飲み物しかなかった。  込み入った話をするには、その方が便利だと思ったからだった。 俺は、豚の角煮の脂をもずく酢で洗い流し、さらにビールでとどめを刺した。  口がサッパリとしたところで、俺は言った。 「話してみろよ。何かあるんだろう?」 「別に。特に何もない――」  月橋が、小振りながらもサザエの茹でたのを掴む。 中身を取り出すための竹串を持つ手を、俺は捕らえた。  ハッとした顔をする月橋に対して、俺は表情を変えないように努めて告げた。 「それは日本酒までとっとけ。――飲むだろう?」 「あ、あぁ・・・・・・」 「ビールにサザエの肝だなんて、生臭いだけだ」  ヤツは黙って、俺の言葉に耳を傾けていた。 自称・日本酒好きとしては有り得ない『失策』をしたと、その小作りな顔がありありと物語っていた。  俺は手酌で、瓶に残っていたビール全てを注ぎ切った。 中瓶のそれのほとんどを、俺一人が飲んだようなものだった。  月橋がほんの一口飲んだだけのも、一緒に片付けてやろうかと思ったが、止めた。 それでは、間接キスになってしまう――。
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