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その前、確かにヤツは思いっ切り眉を寄せていた。
しかしあれは、俺の色々と不適切な発言が原因だった。
けして、タバコにではないはずだった。
ええい!確か洗面所には、使い切りのマウスウォッシュがあったはずだ!
と、俺が再び、タバコのケースに手を伸ばしたその時――、
「野宮も入るだろ?」
と、声が聞こえた。
反応して顔を上げると、そこにはバスルームのドアの前には月橋が立っていた。
一瞬、眩しくて目を細める。
ヤツは備品の白いバスローブを着て、白いバスタオルを頭から被っていた。
その顔が頬が赤く見えるのは、反射の効果なのだろうか?
いや、多分そうではないだろう――。
俺が思わず、その対比に見蕩れてボケッとしている間に、月橋は右の脇に抱えていた、着ていた衣服を一まとめにしたものをソファーの上へと置いた。
そして、頭を拭き始める。
――服、脱がせてみたかったかも。と思って、慌ててヤツが着ていたワイシャツから目を逸らした。
月橋は意外にも豪快に、バスタオルでワシャワシャと頭をかき回して、髪を乾かしていく。
そんな些細な仕種も、俺にとっては初めて見るヤツの姿だった。
白状すると、ずっと眺めていたかった――。
そんな俺の視線に、さすがに気が付いた月橋が手を止めて俺を見た。
微かに笑いのようなもので、口の端を上げている。
「シャワーの温度下げたから、ぬるかったら調節してくれ」
「あ、あぁ・・・・・・」
俺は、わざわざ教えてくれたヤツに不審がられる前に、ソファーから立ち上がった。
いつの間にかすっかりと、タバコを喫いたくなくなっていた――。
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