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俺は続けて、言った。
「起きてたら、そのままでいい。聞いてくれ。――おまえ、俺と寝ようとしてるのは、もう夢を見たくないからじゃないのか?」
「⁉」
また、ヤツの肩が、いや今度は体全体がビクリ!と震えた。
俺は、なおも続けた。
それが、俺がシャワーを浴びながらバスルームで打ち立てた、『仮説』だった。
「もしも、夢が現実になったら、もう見なくなる。そうしたら、グッスリと眠ることが出来る。そのためにも、俺と――」
「違う‼」
月橋が、振り返った。
勢い余って、掛け布団はものの見事に吹っ飛んだ。
『フトンが吹っ飛んだ!』というベタもベタなギャグを思い浮かべて、俺は目の前の現実、――月橋の全裸から目を逸らそうとした。
しかし無駄で、無理だった。
俺がかろうじて出来たのは、ヤツの体ではなく目を、その、黒目がちな大きな目を見つめることだけだった。
それでも、首から下、鎖骨の辺りまでは見える。
――つい見てしまう、自分が嫌だった。
月橋はそのままで、言い募ってくる。
黒いくろい大きな目で、すがり付いてくる。
「違う、――ちがうんだ。野宮」
「何が、どう、違うんだ?」
そう断言するからには、――きちんと説明をしてほしかった。
俺の『仮説』を、根本から覆してほしかった。
ちゃんと、友人としての線引きを設けてほしかった。
俺のいやらしい期待など、完膚なきまでに叩きのめしてほしかった――。
こんなことがあってもなお、俺は月橋とずっと付き合っていきたいと思っていた。
例え、どんな形であっても。
そう、実にあきらめが悪いことに。
「それは・・・・・・」
うつむき、言葉を探し続けるヤツには、布団がはだけ切っていることなど、どうでもいいようだった。
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