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今年度になって、入社当初の部署ではなかったが、また月橋と同じ課に配属された。
ヤツと一緒に働くのは、実に九年振りだった。
出会って十年目になる記念の年を前に、また同じの課になるのは、何かこう――、運命的なものを感じた。
それは大げさだとしても、気心の知れた人間がすぐ近くにいるというのは、
手放しでうれしかった。
ヤツだって俺だって、異なる部署でそれなりに経験を積んできたと思うと、何とも頼もしかった。
入社したての、体力だけが取り柄だったあの頃とは話が違う。
あの頃はまだ半分、いやそれ以上に学生だった。
体力で、俺は思い出したことがあった。
「おまえさ、――もしかして、どこか体に悪い所があるんじゃないのか?」
さすがに、そのものズバリ「病気なんじゃないのか?」とは問えなかった。
しかし、月橋は分かり易いくらいにうろたえた。
「な、何でだよっ!?」
「だ、だって、おかしいだろっ!?」
見ている俺までもが思わず釣られて、慌てたくらいだった。
俺はそこで言葉を切り、月橋をまるっきり無視した。
カウンター内へと向かって、片手を上げる。
程なくして、足音もなくやって来た店主へと俺は告げた。
「辛口のしっかりめの日本酒を、冷やで。とりあえずは一合。お猪口は二つ」
ちなみに、この店のドリンクメニュー酒類の欄には、総称と値段としか書かれていない。
『日本酒一合 八百円』といった具合だった。
店主に、自分の好みを伝えるかしてオススメの銘柄を聞き出し、注文をする。
店主が一拍おいて、答えた。
「ちょうど、無濾過生原酒が入荷しています」
「じゃあ、それで」
「――お待ちください」
口の端が持ち上がり、笑みめいたものが見えたと思った。
しかし、確かめる間もなく、店主は踵を返し行ってしまった。
俺は、月橋を見た。
散ざん迷った挙句に開こうとしただろうヤツの口に、俺は、楕円形に平たく伸ばされた、ナンコツ入りの鶏つくねの串を突き出した。
「話は、酒が来てからだ。これでも食って、待ってろ」
ヤツの前歯がつくねにかぶり付いたのを確かめてから、俺は手を離した。
つくねは俺の皿のだったので、ヤツの皿から、手つかずのそれを取り上げる。
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