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俺も、その柔らかさを確かめることにする。
ただし、ヤツのように箸で身をほぐすのではなく、直にかぶり付いた。
鶏肉は箸ならぬ歯でも、難なく骨から取り外せた。
どうやら焼き色を付けてから、煮込んでいるらしい。
鶏手羽先の照りと塩味との正体は、バターだった。
合わせてスパイス、ニンニクと黒胡椒とも効いていた。
――いや、黒胡椒ではなく山椒だった。
スッとした、青く爽やかな辛みが鼻を抜けていく。
普通の日本酒と合わせるにはコッテリとし過ぎているだろうこの料理も、どっしりとした儀助だったら、負けない気がする。
俺はまた一杯、酒を飲んだ。
二杯目からは手酌なのが、俺とヤツとの間にいつの間にか出来上がった、暗黙の了解だった。
――俺とヤツとでは、アルコールの分解酵素の量に違いがあり過ぎる。
思った通り、バターのまろやかな脂と塩の味とが日本酒の米の旨味と混ざり合って、さらに美味しくなった。
おれは脂と酒とで滑らかになった舌で、続けた。
「この間、業者が帰った後は、カンペキに寝てたよな?スマホ落っことすまで、気付かなかったよな?」
「・・・・・・」
事実だから、またもやヤツは俺の言葉に答えることが出来ないらしい。
超絶技巧の箸遣いで、瞬く間に手羽先を骨だけにしていく。
――食うことばっかにその可愛い口、使ってんじゃねーよ。と、ほとんど八つ当たりのように思う。
つい俺はルールを破って、不意打ちでヤツへと徳利を傾けた。
あごで、お猪口を差し出すように示す。
「あ、ありがとう・・・・・・」
両手で、まるでお猪口を頂くようにしてくるヤツに、俺は酒を注ぎながら言った。
「山脇係長が冗談の分かる上司だからよかったものの、他だったらシャレにならないぞ?」
「あぁ・・・・・・」
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