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出入りの業者が退室した後の席で、山脇係長と飯島主任、そして俺と月橋との四人は、ざっくりとだがまとめをするために、顔を付き合わせて話し合っていた。
そこでも、ヤツはやらかしたのだ。
ほんの数分、席を立った俺がトイレから戻って来てみると、右隣に座る山脇係長の肩に思いっ切り、――頭を乗っけて寝ていた。
「全く可愛いもんだなー月橋は。コイツはきっと、出世するぞー」
「・・・・・・」
職場恋愛の末に結婚した奥さんとの間に、三人の子供有りとのもっぱらの噂の山脇係長には、ソノ気はまるでない。
半ば嫌味で、半ば本気で呆れてつぶやいているのが、俺にも分かった。
分かったが、だからといって手放しで、ただただうなずけるというものでもない。
このバカ、叩き起こしてやる!と、俺がヤツの肩へと手を伸ばしたその時――、ヤツの手からスマホが滑り落ちた。
ゴドンという鈍い音で、たちまちヤツが目を覚ます。
俺は目標をヤツから、ヤツのスマホへと変更した。
拾い上げたそれの液晶パネルには、目立った疵はついていなかった。
応接フロアには毛足が短いものの、一応カーペットが敷かれていたので、無事だったのだろう。
もののついでに、待ち受け画面をチェックする。
――デジタル表示の、ただの時計だった。
よだれこそ垂らしてはいないものの、絵に描いたような寝起きの月橋に、俺はスマホを手渡した。
俺がヤツを睨んでいたことは、ヤツの目に映された自分の顔で分かった。
今夜も、その時と全く同じだった――。
俺は、何時まで経っても口を割らないヤツに対して、作戦を変えることにした。
鳴かぬなら、鳴くように仕向ければいい、ホトトギス。
字余りと言おうか――、自由律。
搦め手から、攻めることにした。
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