決意の夜――居酒屋にて

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 俺は精一杯、神妙に作った声でつぶやいた。 「――健康だけが、取り柄だったんじゃないのかよ?」 「え?」 「昔、そう言ったろ?初日の自己紹介の時に」 「・・・・・・憶えてたのか」  ヤツの声もまた、低く沈んだ。 そんなことは有り得ないのだが、儀助が急に苦くなってしまったかのように。 「健康だけが取り柄の、月橋康です!で、元気いっぱい言ったよな?十年近く経って、若いだけでないのは俺も同じだ。せっかくまた、同じ部署で働くことになったんだし、――もう少し腹割って、話してくれてもいいんじゃないか?」 頼られずに、傷付いていることを包み隠さずに告げる。  俺は密かに、仕事のことだろうと当たりをつけていた。 部署を移動したばかりで、全くの若手でもなくなった会社員の悩みと言えば、やはりコレに尽きる。  色いろと、微妙な年代と立場となのだ。 ――俺も月橋も。 「・・・・・・ノミヤ 二 イケ」  月橋がポツリと言う。 空になったお猪口を見つめていたヤツが、顔を上げる。 笑った目と俺のとが、バッチリと合った。 「――俺の名前は一慶(カズヨシ)だ。イッケイじゃあない」  俺がわざと渋い顔をすると、まんざらでもないようにさらに笑う。 月橋が分かり易いのは相変わらずで、十年近く経っても変わっていない。  ヤツが口にしたのは、入社早そうに俺に付けられた、あだ名のようなものだった。  野宮一慶(ノミヤカズヨシ)を、ノミヤイッケイと読ませる。 そして、ノミヤ 二 イッケイ、ノミヤ 二 イケと崩す。  実在してるかも知れない、サトウトシオさんやオオバナナさん、ハラマキさんと親戚みたいなものだった。
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