第二滴・―堕ちる―

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 よくも。よくも。俺をあんな狭いところに閉じ込めやがったな。  寝たフリをしながら、女が見知らぬ人間と会話しているのを、聞いている。  本心かどうかなんて、分かるものか。  俺を独りにさせた上、あんな仕打ちを何日も。  今は良い。  お前と、世間体のために、賢く、従順なフリをしていてやる。  だがな、家に入って、俺を部屋の中で自由にさせた時が最後だ。  必ず復讐してやると決めた日から、方法を考えていた。  部屋中に、ありとあらゆるところにマーキングしてやる。  女の出払った時を狙って部屋を荒らし、その上でマーキングしまくる。  それが復讐。  最高の方法だと思う。  女が帰ってきた時の表情が見物だな。  二度と俺をあんなところに入れないよう、ずっと傍にいさせるように、可愛がってもらいたいから、復讐するんだ。  あんなところ、いくらいたって仕方ない。  女が望むなら吠えない。  女が望むなら唸らない。  女が望むなら噛まない。  他人には優しい素振り。  人懐こい犬を、演じる。  それで良い。  よし。  早く出て行け。  それが復讐の合図。  そして絶対帰ってきてね。  寂しいから。  甘えたいから。  そしてもう二度と、あんなところには閉じ込めないでね。  大好きだよ、おかあさん――。
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