第一滴・―冷気―

2/3
前へ
/10ページ
次へ
 いつの頃からか、閉じ込められている。  四角い空間。  ドアはない。  空気はある。  だけど、ここからは出られない――。  白い壁、床、天井、光、衣服、それが全て。ここから見える世界。  自分の顔も分からない。  性別も知らない。  生理的な欲求は、一度も訪れない。  感覚は曖昧で、だけど唯一分かるものがある。  ――冷たい。ひんやりとしている。  空気が。  何故だか、それだけが明確に理解出来る感覚なのだが、それが何故かは分からない。  ここから出ようとは思わない。  食欲もなく、動かなくとも体重、体調の変化は見られない。  自分は一体、何なのだろう。  時折そう考えるのだが、時間の感覚もないものだから、そうする事は無意味だとして、全て放棄してみる。  暇ではあるが、ストレスではない。  不思議と眠気も襲ってはこないのだが、ただ、思考はまだ、鈍ってはいない。  誰にそうされたのだとか、どんな陰謀が絡んでいるのかなんて、つらつらとそんな事を考えて、ふと虚しくなって止める。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加