宮田くんは、いい香り

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  「とても素敵だね」  ボクのおでこのあたりに指を添え、彼は切れ長の目をやさしく細めて笑った。 「へっ!?」 「このヘルメット。よく似合っている」  自転車用ヘルメット。工事現場でかぶるような丸いやつじゃなく、現代的に軽量化されたものだ。  バトル漫画のライバルの髪型みたいなツンツンオールバックなフォルムで、遠くからでも目立つ蛍光イエローのラインが入っている。 「うちのばあちゃんが、危ないから絶対にかぶりなさいねってプレゼントしてくれて……」 「そうか。素晴らしいおばあさまだね」 「で、でも、みんなはかぶってないし、じろじろ見られるし、かっこ悪いって笑われたこともあるし、本当は恥ずかしいんだ……」  『似合ってる』って言われてとても嬉しいけど、ボクの心には苦々しい記憶が絡みついている。思い出すたび、イバラみたいにちくちくと突き刺さるぐらいに。 「恥ずかしがることなどない。ひとの用心を笑う者は、いつの日か後悔に泣く者でもある」  宮田くんはやわらかな笑顔を急にひるがえした。眉をひそめ、凛然とした態度でイバラを踏みしめてくる。  
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