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彼の涼やかな視線は確かにボクをとらえている。数秒間、たしかに見つめ合った。
いつでもにこやかに上がっている口角は下がり気味。その瞳は悲しげで──。
(あれ……?)
なにかがおかしい。
ボクが昨日まで熱烈にウォッチングしてきた宮田くんと何かが違う。
違和感は授業が始まっても変わらなかった。
むしろますます『いつもの宮田くんじゃない』という予感が膨らむ。
授業開始の号令の声は小さくてモゴモゴしているし、まっすぐの背筋がどんどん前傾していく。なにより、頬がゆでたように真っ赤だった。
授業が始まってまだ10分も経っていなかったけど、ボクは思わず立ち上がっていた。
「せ、先生、……あの」
「どーした?」
野太い声で怒鳴り散らして泳ぎ方を指導している先生の話をさえぎるのはとっても怖かった。
案の定、両指の先っぽが急激に冷たくなってくる。
でも、引き下がれなかった。
「み、宮田くんの様子が、おかしいと思います……」
「宮田が?」
いぶかしげにボクを睨みつけていた先生も、生徒の体調不良と聞けば態度を一変させた。
すぐにプールから宮田くんを呼び出し、「具合が悪いのか?」と、たずねた。
「……はい。少し……からだが、だるくて……」
水のなかから顔を上げた宮田くんの目はすでにうつろだった。視線は先生のほうにあるのに、焦点があってない。
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