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「きみたち、少しいいかな? お楽しみ中のところすまないが」
「ふぉー、いいんちょー! なんか用?」
宮田くんが声をかけたのは、ボクの席を占領してチョコチップ無しメロンパンをむさぼり食っている男だった。もぐもぐしたまま喋るから汚い。
でも、委員長は嫌な顔ひとつしない。
胸の前でゆったりと指を組んで、友好的な笑みを浮かべている。
「申し訳ないが、そこの席を空けてくれないか? 掲示物を貼り直したいのでね」
とても丁寧な喋り方。おまけに声もいい。月夜に響くアコースティックギターの音色のようで、なにを喋っても雰囲気と説得力がある。
「おう。いーよー!」
宮田くんの前では、太陽なんて下等な物質でしかない。──ってか、ボクの席に勝手に座っておいて『いーよー』なんて図々しいにもほどがあるだろ。なんでお前が許可してんだよ。
「ありがとう。感謝するよ」
宮田くんは委員長としての仕事をスマートにこなす。
ボクの席の横の壁に貼られた『テストまであと“35”日』のカウントダウンを『34』に直した。
テストのことなんて考えたくもない──憂鬱に心が沈み、頭まで重たくなったときだった。
穏やかな足音。近づいてくる気配がする。
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