保健室では、お静かに

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   なんなんだこの先生は──。  ちょっとムッとしながら靴をはき、ベッドから出たところでさらに妙なことに気づいた。  パタパタと忙しそうにしている先生の白衣の背中には、舞い散る紅葉と黄金色に輝く鹿の首の刺繍。  テッカテカのゴテゴテで、まるでスカジャンのよう。  よく見ると右肩にも楷書体の真っ赤な刺繍がしてある。  脂ぎった血のごとくギラギラと輝く『尾』と『花』と『沢』の三文字。 「尾花沢(おばなざわ)……?」  思わず声に出して読むと、先生はまるでモデルのごとく腰を回してこちらを振り返った。 「なーに? 親しくもないのに急に呼び捨てはやめてちょうだい」 「えっ、あっ……!」  尾花沢──まさか名前だったとは。  
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