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「お疲れ様です」 「おう、お疲れ」 上司や先輩、後輩に挨拶して、俺は家路に着いた。 免許を取ってすぐに就職した運送会社は、小さな事務所でも、独り身の生活には困らないくらいの給与は出た。 大きな交差点の赤信号に止められると、携帯電話のバイブが一つなった。ズボンのポケットから取り出して見てみると、友人からのメールが一つ入っていた。 「結婚したのか、(たける)」 式は、近くの大きな式場でやるらしい。高校教師同士の結婚だ、派手になるのも無理はない。 只一つ言える事は、結婚というのは俺には無縁の世界だという事だ。 後ろの人々が歩き出しているのに気付いた俺は、信号が青くなってるのを見て歩き出した。帰宅ラッシュのこの時間帯は、そこそこ混み合っていてすんなりと前には進めない。今日も相変わらずだと空を見上げた。すると、丁度真上に、いつか見た橙色の星があった。 「赤、なんだよな、これ」 と小さく呟くと、横断歩道を渡りきった。この人ごみの中で、あの星を見た人は俺くらいだろうと思いながら歩いていると、斜め前で派手に転んだ女を見かけた。どうやら、近くの若い男達に足をひっかけられたらしい。 「俺達の邪魔をするからだ」 と、若い男達は彼女を見て笑いながら、さっさと去っていった。 何事も無かった様に立ち上がる彼女に、俺はこっそり持っていた絆創膏を渡した。彼女は恥ずかしそうに頭を掻くと、目を細くして笑って礼を言った。 「あっ、鼻緒切れた」 と、背中で小さく声がした。彼女だと分かると、何となく放っておけなくなり、持っていたハンカチで応急処置をした。かなりドジだと思った俺は、彼女を、おっちょこちょい。と呼ぶことにした。勿論頭の中で、だ。 「ありがとうございます。二度も助けて頂いて」 彼女はそう言って頭を下げた。俺は笑って返すと、その場を後にした。
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