明日の果て

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玄関を開けると居間の父と母にただいまと告げ、階段を上がって私の「世界」にたどり着くと、荷物を放ってベッドに腰掛けた。 私の「世界」はいつも私を無条件で許し、迎え入れてくれる場所だ。 早々にテーブルに置かれた安い家庭用のキーボードの電源を入れる。ハノンの指練習を何度かして指を慣らし、今日の曲産みに取り掛かった。 曲は作るのではなく、産むのだ。 空中や記憶や物音や空気。そこら中に存在してる美しい源を拾い集め、聴き、感じ、指から静かにコードへと変換して行く。そして言葉が産み出される。自然に、理論的とは正反対に、ふっと無意識からゆらりと現れた断片を指先から音へ、そして言葉を乗せて、私から生まれ出てくる。 Key C ドミソを軸にした音楽だ。ベースとなる音はド・ファ・ソ。それぞれを1番下の音にしてお団子のような和音を作る。 ここに飾りとなる他のベース音の和音を足していく。それぞれのお団子のような和音の1番下の音の流れをコード進行という。 今日は王道のコード進行「カノンコード」で生み進める。王道コード進行はシンプルに美しくメロディを乗せやすい。 ド ソ ラ ミ ファ ド ファ ソ クラシック音楽の「カノン」そのもののコード進行だ。この進行はいつ聴いても素晴らしく美しく、安心と感動的高揚感をもたらしてくれる。 そこに今日は、あの夕日のような言葉を乗せるのだ。切なく美しく、まるで人生のように刻一刻と変化し消えていく、あの夕日のような言葉を。
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