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夏祭り
いつもと同じ旧い神社の境内が、この夜ばかりは浮き足立っている。
色鮮やかな提灯が並び、所狭しと屋台が並ぶ。
太鼓の音に、人々の楽しげな声。が音響となって祭りを盛り上げている。
今夜の康隆(やすお)はとても機嫌が良かった。
年に一度のこの祭り、彼の生まれ故郷であるこの町の慣れ親しんだ行事なのだ。
普段は若者が減り気味の、田舎の町がこの時ばかりは賑やかに元気になる。
彼はそれがたまらなく嬉しかった。
(お?)
祭りの明かりから少し離れた所にその影はあった。
中腰で屈んだ姿のその人は、下を見ながらキョロキョロと何かを探しているようだった。
「……あの」
「え」
思わず声を掛けると影は慌てて起き上がり、振り向く。
浴衣姿の女性だった。
黒字に朱色の華が咲き誇る柄で、このしなやかな若い女性にとてもよく似合う。
「何か捜し物ですか?」
「え、ええ」
女性は浴衣の裾を払い、眉を下げて頷いた。
「実は、耳飾りを片方……」
「ああ。なるほど」
確かに紅い花を象った耳飾りが片耳にしかついていない。
「ここらで失くしたんですか?」
「多分」
「俺も一緒に探しますよ」
康隆がそう申し出ると、女性は『すいません』と頭を下げた。
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