筋子のおにぎり

1/27
644人が本棚に入れています
本棚に追加
/438ページ

筋子のおにぎり

1  松の内が過ぎ、何日経過しただろうか。雪国は冬真っ盛り。  青森の春はまだまだずっと先だ。  私がここ、青森県十和田市に引っ越してきて一年が経とうとしていた。この街は自然豊かな田舎街。電車は通っていなく、買い物をする場所も少ない。  悪く言えば、とても不便な街だ。  夏は緑に囲まれて美しいけれど、冬はとても厳しく身動き出来ない程、辛い。  この街の観光名所といえば『十和田湖』。火山活動により、出来たガルテラ湖。十和田市と秋田県の小坂町にまたがる割と大きめな湖だ。山々に囲まれており、周囲は緑が濃くて、湖は青く透き通っている。秋は紅葉が美しく、違う趣を見せる。私はここの湖が日本の湖の中で、一番好きだ。  そして、十和田湖の水が流れる奥入瀬渓流が延びており、この渓流周辺は緑の木々に囲まれていて、空気が美味しい。  しかし、今は真冬。ほとんどの道が閉鎖されている為、出向くことが難しい。八戸から遠回りして行くことは可能だが、かなり遠回りになる。  私は元々東京育ちだった。母が祖母の介護をする為、青森に引っ越した。父は、それを機に青森県に転職した。だから青森県の方言はまだまだ、私には分かりにくい。寒冷地のこの厳冬が私にはとても、辛い。  二十三時。床についていたが喉の渇きを覚え、目が覚めた。ゆっくり身を起こし、窓の外を眺める。  闇の中で、白いボタン雪が惜しげなく降りて来る。水分を含んだ重い雪は暗がりの中でも、しっかり見えた。  マンションの十階から下を見下ろす。  一面が真っ白なのが漆黒の中でもよく分かった。明日の出勤は大変だろうな。と、重いため息が漏れた。  私、林田琴音、二十二歳。職業は十和田市内のショッピングモールのアパレルショップの店員。
/438ページ

最初のコメントを投稿しよう!