ウォーリーを探せ!

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「あぁ!サイフが! アタシのサイフが無い!」 中年の女が、オレの背後で金切り声上げている。 「あっ!こっちもだチクショウ!何時の間にかバックからサイフが無くなっているぞ!」 若いサラリーマン風の男が怒鳴っている。 ……ふん。遅せぇんだよお前ら、気付くのが。 「待ってください!私は警察です! 誰ですか?怪しいヤツは何処ですか?!」   ……ああ、あの声は『いつもの刑事』だな? イライラしてるなぁ。最近は事情聴取するのも面倒か? だがな、被害に気づいた所でもう遅い。 こんな混雑した駅の構内で、どうやって『オレ』を特定するって言うんだ? パッと見でも近くに1000人は居るだろうが! しかもオレには『特技』があンだよ、誰にも真似の出来ねぇ『特技』がよ!   「待って!確か、若い男性だったわ!」 中年の女が喚いているのが聴こえる。 「そうだ! 茶色のコートを着ていたぞ!」 サラリーマンが同調する。 「聞いたか?!『若くて茶色のコートを着た男性』だ!……『今度は』な!」  忌々しそうに、刑事が仲間の警官に指示を出していた。 へっ……お仕事お疲れ様ってヤツだぜ。ま、無駄足だろうがよ。 もうすでに『今のオレ』はそんな格好をしちゃぁいないよ。……いつも通りな。 日本という国は、本当にエンターテイメントでは食えない国だと。 オレはつくづく嫌になっていた。 苦労して大道芸を極めたところでチンドン屋と区別をつけて貰えないし、新しいマジックを開発して披露したところで世間の関心は『タネは何だろうか』だ。純粋に『騙されて楽しむ事にお金を払う』という文化が、この国には決定的に欠如しているような気がしてならない。 だから、いいパフォーマーが中々育たないし、育ってもエンターテイメントの本場である米国に行っちまう。 ……そうしないと、メシが食えないから。 だが、それでも米国でモノになるパフォーマーはホンの一部に過ぎねぇ。 何しろ、同じ事を考えて世界中から『天才』と呼ばれるヤツらが集結するからだ。 ラスベガスのキャッスルに出演出来るスターなんて、ヤンキースタジアムの客席を満タンにする程いやがるエンターテイナーの中で『1人か2人』に過ぎん。 残りはツブされて野垂れ死にするか、母国に逃げ帰るかの二択。 そう、オレと同じように……だ。 そうして、オレは生きて明日のメシ代を稼ぐために『スリ』を始めた。 パフォーマーとして現役だった頃に苦労して磨いた『早着替え』で『群衆に紛れる』。それがオレの特技なんだ。 何時の間にかオレは、警察から『何処に隠れたか分からないヤツ』という意味でこう呼ばれるようになった。 『ウォーリー』と。
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