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「なんかお父さんが知らない人に見えたよ」
「うちママ死んじゃってるからさ。気にしたことないな」
「ん……」
少しの沈黙の後また優樹が和奏に訊ねた。
「ねーちゃんはセックスどう思う? そりゃ気持ちいいけど、あんなお父さんみたいになるのって信じらんないや」
和奏はぎょっとして
「あんた。もう経験あんの?」
と、驚いて聞いた。
「え。あるよ。でも俺、遅い方じゃないかなあ。」
「ああ、そうなの……」
四歳しか違わないのにイマドキの奴は……と和奏は思いながら言った。
「愛情の問題じゃないの? 直樹おじさんと緋紗ちゃん誰が見てもラブラブじゃん」
「そうか。気持ちなのか」
妙に納得しながら優樹は頷いていた。
直樹と緋紗は大恋愛だったと和夫からも伯父の颯介からも聞いていた。二人は岡山で出会い愛し合ったがお互いを大事に想いすぎて離れ、そして再び結ばれたのだという。
一度得た自分の半身を手放す辛さは優樹にはまだ想像ができなかった。そしてその半身を再び得る歓びも。憧れと妬みと焦燥感が募る。
「明日は家に帰るよ。なんか気まずかったけど、話したらすっきりした」
「そ。よかったね」
和奏は余計なことを聞かされたせいでむしゃくしゃしていたが平静を装って
「じゃ、そろそろ寝ようか」
と、席を立った。
二人はロビーを後にした。根本的に寂しさがぬぐえないまま、それぞれ一人きりの部屋に向かった。
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