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和奏はベッドに横たわってドレッサーの上に飾ってある母、小夜子の写真を眺めた。
嫣然と微笑みながら赤ん坊の和奏を抱いている。子供心にも母を美しいと思っていた。この世の美しさの全てが母に集まっているとすら感じていた。
そんな母は和奏にとって誇りであり自慢だ。
それと同時に、周囲の自分を見つめる目が和奏を通り抜けて、小夜子を見ているのではないかと感じてしまっている。
(被害妄想なんだろうけど)
若く美しく力強いまま逝ってしまった母が今生きていれば、父の和夫が恋しそうに遠くを見つめる姿を見ることも、自分が直樹に長く実らない恋をすることもなかったのでないかと考えてしまう。
(なんか虚しい)
優樹の〈言葉に言い表せない寂しさ〉は、和奏にもなんとなく理解できていた。和奏も同じだからだ。
しかしそれをどうすることも出来ない幼い自分に、憤りを感じることがある。(早く大人になりたい)
「ママ……」
呟いて目を閉じた。
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