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ゴールデンウィークがやってきてペンション『セレナーデ』も繁忙期を迎える。
部活も休みなので優樹はまたバイトににやってきている。いつもバイトばかりで一緒に遊んでくれないとぼやいていた彼女とは結局、進路の違いで別れていた。少し悲しかったが傷つくほどではなかった。
ペンションの駐車場に差し掛かると見慣れない白いクーペが止まっている。(BMか? あ、和奏ねーちゃん)
狭い車内で何やら男と揉めているのが見えた。男が和奏に覆いかぶさろうとするのを、はねのけているようだ。心配になり優樹は近寄って窓をノックした。
和奏がドアを開けて勢いよく出てき、男に口早に言う。
「ほんと、無理だから。ごめん」
「わかったよ。もういいよ」
男はムスッとして言い優樹を一瞥し車のエンジンをかけ、和奏がドアを閉めると男は勢いよく発進し去って行った。
「また喧嘩かよ」
優樹が尋ねると
「喧嘩じゃない。別れたの」
と和奏は静かに言った。
優樹はまじまじと和奏を眺めるとオレンジのグロスが大きく唇からはみ出し、アイボリーのカットソーがズレ、サテン生地のピンクのブラジャーの肩ひもが見えた。綺麗な黒髪もくしゃっと乱れている。ハッとし気まずいと思った優樹は目を逸らした。そんな様子の優樹に和奏はさっと着衣の乱れを直し、髪を手で肩の後ろにたなびかせる。
「ねーちゃんはいつも同じような眼鏡の男と付き合ってるな」
「えっ。たまたまよ」
ぎょっとしたように言う和奏に優樹はお構いなしで
「うちのお父さんみたいな眼鏡ばっかり」
と笑った。和奏はしばらく押し黙って優樹の足元を睨みつけていた。
「余計なこと言わないの」
不機嫌な和奏をこれ以上触発するとまずいなと思った優樹は
「じゃ、またあとでね」
と急いでペンションに向かって走った。
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