2 両親

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 高校生になってから優樹はペンションでちょくちょくバイトをした。  ペンションではオーナーの和夫が基本的に一人で切り盛りしている。陶芸教室の合間に母の緋紗が手伝うこともあり、繁忙期には大学二年生の和奏も手伝っていた。またディナータイムのピアノ演奏は昼は作業療法士として病院勤務をしている沢田雅人がもう十六年も続けている。  優樹は生まれたときからこのペンションで過ごしてきているのでペンションでのバイトは家の手伝いも同然だった。夏休みは部活を終えた後、学校から直接自転車で通いバイトをして家に帰る日々だ。  上り坂を登りきって一呼吸して駐車場の片隅に自転車をとめる。(暑いなー)タオルで汗を拭きながら優樹はペンションに続く階段を駆け上がる。息を切らして見上げると沢田雅人がちょうどピアノの演奏にやってきたところだっだ。 「やあ。優樹君。頑張ってるね」  長身でほっそりとした雅人は優しく声を掛けてきた。 「雅人さん、こんにちは」  荒い息交じりで応える。 「部活帰り?またサッカー部だっけ」 「うん」 「優樹君はなにか楽器はしないの?」 「うーん。俺、音楽にはあんまり興味ないかな」 「そう。最近、大友さんもピアノ弾きに来ないし勿体ないね」 「ああ。和奏ねーちゃんがもう子供じゃないから弾いてくれなくていいって言ったんだってさ」 「そうなの。それじゃあ大友さんも寂しいねえ」 「どうかなあ。お父さんは、あ、っそうって感じだったよ」  おどけた調子で直樹の真似をする優樹を見て雅人は微笑した。 「いいピアノがもったいないから弾きたくなったら教えるよ」 「ん。そんな時がきたらね。じゃ、俺、厨房手伝ってくる」 「またね」  優樹は元気よく厨房へかけていく。雅人はそんなあどけない後姿を優しく見送った。
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