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4 ペンション
昼食を終え、優樹はショップの土産物を整頓していた。地元のお茶クッキーやら漬物やらの賞味期限を確認した。
(良く売れてるから期限切れってないな)
アロマオイルの見本の香りを嗅いでみる。スギ、マツ、ヒノキの三種類の香りがあり同じ木なのにそれぞれ違う香りがしていた。
(お父さんとお母さんの匂いがするな)
直樹と緋紗はこのスギオイルを使ってフレグランスを作り二人で着けていた。その香りのせいか二人が寄り添っていると、二本の木が絡まって一本になったように見えるのが不思議だった。
そんな時は自分がのけ者になったような気がして優樹は寂しくなるのだ。
ぽってりとした温かみのあるカップを手に取って眺める。アイボリーの粉引きで月の模様が抜かれてあり高台には『Serenade』とサインがされてある。母の緋紗が作ったものだ。グレーの月を見つめていると和奏が帰ってきた。
「ただいま」
「あ、おかえり」
「ご苦労様。着替えたら手伝うね」
「うん」
和奏は暑い夏でも涼しげで凛々しい。黒い艶やかな髪をなびかせて部屋に入って行ったが、すぐに髪を束ねリネンのエプロンを身に着けてやってきた。
「野菜とりに行こうか」
「オッケー」
優樹はステンレスの大きなボールをもって和奏について行った。ペンションの裏には三坪ほどの菜園があり料理にも使っており、今は夏らしく薫り高いイタリアンパセリが茂り、トマトやナスがたわわに実っている。
「赤いの全部取っちゃって」
和奏の指示で優樹は野菜を収穫していった。和奏は雑草をこまめに抜いている。
「なあ。ねーちゃん。俺も大人になったらここで働きたいな。正社員にしてくれよ」
「え。本気? まだ決めるの早いんじゃないの? あんた他に好きなことないわけ?」
本当の姉弟のような二人は遠慮なく話し合う。
「うーん。思いつかない。ねーちゃんだって子供んときから継ぐって決めてたんだろ?」
「まあね。ここ好きだし」
「俺くらい雇えるだろ」
「そうねえ。今の調子ならねえ。まあまだ先の話でしょ。気持ちが変わらなきゃいいわよ」
「やったー。就活終ーわりっ」
「あんたねえ」
笑いながら和奏は立ち上がった。
「じゃ、そんなもんでいいわ。いこ」
「ん」
二人は仲良くじゃれ合いながら厨房へ向かった。
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