死がふたりを結ぶまで

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あれから数日後、互いに何事も無かったかのように毎日が過ぎていた。どちらもあの日のことを口にすることは無く、だが決して忘れられるものではなかった。 「宗近ー、今終わったぞ。しかし、あいつらの処分本当にあれでよかったのか?」 宗近が書庫で書物の整理をしていると、宗近と同じく藤定の側近である佐久間(さくま)が探しに来た。あいつらとは藤定に無礼を働いた部下達のことだ。何かと忙しい宗近に代わり、二人の処分を下してくれた佐久間は、その報告に来たのだ。 「えぇ、構いません。本当は叩き斬ってやりたいのですが、上様は争いも殺生も好みませぬ故。」 そう言ってにっこりと微笑む宗近に、佐久間はやれやれというように首を振った。 「本当にお前は…普段は温厚な方だと言うのに、上様が絡むと人が変わるな。」 お前が一番物騒だぞと呆れたように宗近を見る。 佐久間は宗近と10以上も離れていて藤定よりも歳が上なのだが、明るい性格故か気さくで話しやすく藤定に対しても物怖じしない態度をとる。宗近が藤定以外で唯一信頼している男だ。 基本のらりくらりとした所があるが意外と優秀で、こうして宗近と肩を並べられる男は佐久間ぐらいのものなのだ。 「そう言えば聞いたか、由苑(ゆうえん)の話。」 佐久間は思い出したというように急に真面目な顔付きになると、宗近の方を見た。 由苑というのは我楽に近い小国で、最近急に勢力を伸ばし始めたと噂のある所だ。ここ二、三年でよく聞くようになった為、宗近もなにかと危惧していた。 「由苑がどうかしましたか。」 「いや、最近よく噂を耳にするだろ?あまり良くないやつ。俺の立場上周りより情報は入り易いんだが、なんでも我楽に目を付けたらしい、と。」 「っ!……我が国に!?」 宗近は持っていた書物を無意識に握り締める。 「あくまで噂程度だぞ!?何を狙っているのかもわからんし、第一今由苑は他の小国と戦中だ。」 殺気立つ宗近に、佐久間は慌てて付け足す。 「………………上様には、もうお伝えしたのですか。」 「まだだ。不確かであるし、先にお前に言っておこうかと…。」 「お心遣い感謝致します。由苑について調べないといけませんね。」 「あぁ、それは俺がやっておこう。何か分かればまた報告する。」 言いながらちらりと宗近を見遣れば、先程の動揺が嘘のようにもう書物整理へと戻っている。だが佐久間には宗近の考えていることが分かる気がした。宗近の中で由苑は敵であると刻み込まれたに違いない。幼い時から藤定に絶対的な忠誠を誓う男だ、上様に仇なす者は何人たりとも許さない──という考えであることを、佐久間は知っていた。殺生がなんだと言っていたが、普段は藤定に仇なす者がいればそれはもう冷酷に葬り去っている。今回は藤定の目もあり、生温い処罰しか下さなかったに過ぎない。勿論そのことを知ってるのも佐久間だけだ。特に藤定には知られたくないという宗近のフォローをしたりする。そこが宗近が信頼を置いている所以でもあるし、藤定の憂いは少しでも無くしたいとう気持ちは佐久間も同じ。つまりは利害の一致ということだが、もう一つ。藤定と同様に幼い頃からを知る宗近を弟のように思っているから、というのは黙っておく。 「では、邪魔したな。」 佐久間は書庫を出た。ただの噂で終わればいいが…と思いつつ。宗近にはあんなことを言っておいて、この話の信憑性は佐久間が一番よく分かっていた。
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