死がふたりを結ぶまで

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それは最初、些細な噂にしか過ぎなかった。水面に一滴の墨が落ちるような、気にする程も無い本当に小さなきっかけだ。しかし、 "由苑が我楽に攻めてくる" 落ちた墨は、驚く間もなく黒い波紋を広げていった。それは常に国を覆っていた、いつ他国から攻められるだろうかという不安を揺らすには充分すぎるきっかけだった。 我楽では毎日のように騒ぎ立っては、尾ひれの着いた噂が飛び交っていた。それらの不安も不満も、最終的には全て藤定に向けられる。 暴動が起こる寸前ともなれば、宗近が動く間もなく騒ぎは藤定の耳にも届いた。 藤定はすぐさま交渉の用意をしたが、戦国の風潮が染み付ききった民達はそれを良しとしなかった。 『武器を取れ』 『国を見捨てるのか』 『誇りはないのか』 今まで以上に直接的な言葉は確実に藤定を追い詰めていった。
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