死がふたりを結ぶまで

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「佐久間よ、民達が騒いでおる由苑の件、信憑性は如何程か。」 「はっ!どこから情報が広まったのかは分かりませぬが、私も調べておりましたところ由苑にもそういった動きがあったようで……。」 「おぬしは知っておったのじゃな?」 「っ!………はい、まさかこのような騒ぎになるとは…申し訳ございません。」 「そうか───佐久間、触れを出せ。戦の準備を始めるのじゃ。」 「上様!?それは……っ…!」 「わしも腹を括らねば。聞けば由苑はどのような相手でも容赦がないという。黙っていれば国が脅かされる、話し合いでは民が納得しない……ならばこれしかないのだろう。」 決意の表情の奥に浮かぶ悲しげな色に、佐久間は何も言えなかった。 「由苑の兵を迎え撃て!戦とはいえ攻め込むことはせん。殺すなとは言わん、それでは己を守ることも出来んでな。しかしあくまで守りに徹せよ!」 「はっ!」 力強く言い放つ藤定の言葉に、佐久間は心強さと自分の不甲斐なさを感じずにはいられなかった。 「上様、失礼致します!」 逸る気持ちを抑え、藤定の返事を待つ。 「長尾岨か、入れ。」 許しを得て襖を開ければ、藤定が静かに佇んでいた。 急な謁見にも関わらず藤定は一人だった。小姓たちは戦の準備を始めているのだろう。 「無礼を承知でお尋ね致します。…由苑と戦をなされるというのは真にございますか。」 宗近は藤定の前まで来ると、頭を深く下げ押し殺すような声で尋ねた。 「…───真じゃ。佐久間に伝えさせた故今頃は民の暴走も落ち着いておろう。」 何故、──など聞けないだろう。宗近にも、今更戦う以外の選択肢がないことは分かっていた。 「ならば私に指揮を取らせてください。必ずや我楽を守ってみせます!」 少しでも藤定を戦から離したいと、宗近は自らが出ると申し出た。 しかし 「ならぬ。」 「─っ、何故ですか!!」 自然と声が大きくなる。 「指揮はわしが取る。武力放棄を掲げておいてこの有様、その上当主が前線に出ないなど民に申し訳がつかんだろう。」 「そのようなことっ、──」 思わず顔を上げれば真剣な表情の藤定と目が合った。 「誰が面を上げて良いと言った。」 落ち着いた声音に慌てて頭を下げる。 このような藤定を見たのは初めてだった。 藤定は軽く息を吐くと「許す」と言って、持っていた扇を開いた。 宗近は恐る恐る顔を上げる。 「兎に角、軍を率いるのはわしの務めじゃ。異論は認めん。」 揺るぎのない言葉に宗近は引くしかなった。藤定にこのような決断をさせるしかなかったことに、酷く自分を責める。 「そして、おぬしにはここを守ってもらう。たとえ攻め込まれたとしてもおぬしなら城と民を守ることができよう。」 淡々と告げる藤定の言葉に、宗近は耳を疑った。 「何を仰いますか!上様が戦場に向かうというのに、内で待っているだけなど……っ…私には出来ません!!どうか私をお側に…っ!」 「ならん。おぬしの役目はわしを護ることではない、国を守ることであろう。」 「貴方様無しに国など成り立ちません!!」 宗近は込み上げてくる感情を隠すことなく叫んだ。ただでさえ藤定は望まない戦いに苦しんでいるというのに、自分は側にいることも許されないというのか。そのようなこと宗近には耐えられなかった。 「貴方様を護れないというのなら今ここで死んだ方がましです!!」 「……!」 宗近の言葉に藤定は目を見開くと悲しげな表情をした。そのまま立ち上がり宗近に背を向けた。 「…………わかった。おぬしには佐久間の隊を分け、第三部隊長を任ずる。隊を率いて東方を固めよ。」 絞り出すような声で言葉を紡ぐ。 「ありがとうございます。」 藤定の震える肩に見ぬ振りをして。宗近は戦の準備を始めた。
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