死がふたりを結ぶまで

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「すぐに人を───」 「よい、もう起き上がれそうもない。それより側に居てくれ。」 「ですがっ!」 「最後の頼みじゃ…。」 「っ、!」 最後という言葉に宗近は大袈裟に肩を揺らした。 「平和な世を創るなど偉そうなことを言っておいて、結局はこの有様。申し開きの仕様もないのう。だが……これで少しは償いになっただろうか。」 「なにを…っ、平和な世ならこれから創ってゆけば良いではないですか……!」 宗近は震える声で藤定に訴え掛けた。 「──いつか、身分も立場も…何にも縛られることなく、皆が平和に過ごせる世になると良いな。」 「何を仰いますか……!それは貴方様が創る国にございましょう!?貴方様が……っ、他ならぬ上様が望む国だからこそ、私も見てみたいと申したのです。一緒にそのような国を創ると約束してくださったではありませぬかっ!」 「わしにはもう……最後に民一人でも護れて良かった。あぁ、だがこのように不甲斐ない主に着いてゆく者などいなくて当然じゃな。……お主だけじゃ。わしの夢ごとのような理想を信じ、着いてきてくれたのは。約束は……守れそうにない。ほんに、すまぬ……。」 話す間にも、藤定の呼吸はどんどん浅くなっていく。傷は深くはないが血を流しすぎたのだ。宗近はだんだんと体温を失っていく身体を必死に抱きとめた。 「謝罪など……っ!貴方様はいつだって正しかった、あの者達は何も分かっていないのです!争いでは何も生まれぬと、民を一番に想っていたことに気付きもしないで!私は…私は、上様がいなくては…っ……藤定様がいなくては生きてなど行けません。国も、民も、どうでも良いのですっ、藤定様さえ居てくだされば……っ!」 宗近は泣きながら、半ば叫ぶように訴えた。涙が藤定の頬や首筋に落ちては血と混ざり合う。藤定は緩く微笑むと、悲痛に歪む宗近の頬に手を伸ばして弱々しく涙を拭った。 「泣くでない……せっかくの男前が台無しではないか。もう良いのだ、いい加減この立場にも疲れた。人の上に立つ者としてこれほど相応しくない奴などいないであろうな。──あぁ、それにしても…名で呼んでくれたのはいつぶりか。ずっと寂しかったのじゃぞ?」 おどけるように笑う藤定の手にはもう、少しの温もりもなかった。 宗近は頬に添えられた手を少しでも熱が移るようにと、上から力強く握りしめた。 「名なぞいくらでも呼んで差し上げます…!私も意地を張るのはやめました…ですから、どうか……っ!」 もうどうしようもないと悟ってはいたが、それでも宗近は何か手はないかと考えずにはいられなかった。 「おぬしの気持ちも──分かっておる。………愛しておるぞ、宗近──」 そう、最後に穏やかな笑みを浮かべて。藤定は眠るように目を閉じた。 宗近が握っていた手から力が抜ける。
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