死がふたりを結ぶまで

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「上様ー!上様!どちらにいらっしゃるのですかー?」 我楽城の渡り廊下。藤定の側近である長尾岨宗近(ながおそね むねちか)は、自室で執務中であるはずの藤定を探していた。 「まったく……どこにおられるのだ。」 藤定の仕事は専ら書状整理だ。その中で許可を出したり問題があれば指示をしたりといったものばかりで部屋に籠ることが多い。今日も朝からうず高く積まれた書状を相手に筆を走らせていたため、宗近は頃合を見計らってお茶を持っていったのだが、部屋を覗けばあるのは書状の山ばかりで当の本人は何処にもいなかったのである。 広間に続く廊下に差し掛かった辺りで、宗近ははたと思い立って方向を変え、中庭の方へと向かった。 「……上様、探しましたよ。」 広く放たれた中庭の隅、木々が茂り薄暗くあまり陽の当たらないそこには、池の錦鯉を眺める藤定の姿があった。 「おお、長尾岨。近う、おぬしも見るがいい。なかなかに美しいぞ。」 声を掛ければ、にこやかな笑みを浮かべてこちらを振り返る。 宗近は言われた通り藤定に近付くと、少し後ろの位置で立ち止まった。 「書状整理はどうなされたのです?今日もいつもと変わらぬ量でしたが。」 少し咎める口調で藤定を見ると、むぅ、と唇を尖らせてそっぽを向いてしまった。 「昼までの分はもう終わらせた。毎日似たようなものばかりで飽き飽きなのじゃ。そもそも、おぬしが悪いのじゃぞ?厄介なものは全ておぬしがやっているのであろう?わしが判断を下すまでもない等思うておるのじゃろうが、わしは飾りではないのだぞ。」 恨みがましく文句を言う藤定に、宗近はどうしたものかと息を吐いた。 「飾りなどとは露とも思ってはおりません。上様の職務はこれだけではありませぬし、貴方様の負担を出来る限り取り除くのが私めの務めにございます。」 本心からの言葉を言えば、藤定はむくれつつも自室へ続く廊下へと歩き始めた。 「上様、鯉はもうよろしいのですか?」 急に歩き出した藤定に慌ててついて行く。 「ん?なんじゃ、仕事に戻れと言いに来たのではないのか?」 不思議そうにこちらを仰ぐ様子に、藤定を探していた理由を思い出した宗近は、あぁと頷いた。 「お茶をお持ちしようと思ったのですよ。上様の好きな菓子も手に入りましたので、そちらと一緒に。」 お部屋に置いておきましたと伝えれば、藤定はふむと考える素振りを見せてこちらに戻ってきた。 「ならばここで休みたい、持ってきてくれるか。あぁ、おぬしの分も持ってくるのじゃぞ。わしの相手をしておくれ。」 「承知致しました。では、上様のお茶も入れ直してきますね。少々お待ちを。」 にこにこと笑う姿に断れず、宗近は二人分のお茶と茶菓子を用意する為台所へと向かった。
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