死がふたりを結ぶまで

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「藤、定……様?あ…いや、です……っ、藤定様ぁぁ!!うぁ、あぁ……っ────」 宗近はもう目を開ける気配の無い藤定を抱きしめて、咆哮するかの如く泣いた。ビリビリと痺れたようになる頭の中で、敵兵に気付かれるかもしれないとどこか冷静に考える自分がいたが、それでも涙は止まらなかった。 「違う…こんな、こんなはずでは……!藤定様は争いなど望んでいなかったというのに……、…何故……っ!」 こうしている間にも、敵兵の気配は多くなる一方で。もう殆どを囲まれて逃げ場が無くなっていった。見つかるのも時間の問題だった。ここに来るまでの間に、援軍を呼ぶよう伝えてはいた。果たして間に合うだろうか。 このような結末になる筈ではなかった。藤定が望んだのは武力などではなかったのに、結局戦乱の世を変えることは誰にもできないのか。なんの為に自分が身を引いたというのだろうかと、宗近は信じてもいない神を呪った。 「……藤定様。ずっと、ずっと──お慕いしております。」   たとえ悟られていたとしても、決して口にしてはいけなかった言葉。 宗近はゆっくりと藤定の顔に近付くと、触れるだけの口付けを落とした。ほのかに残る温もりと、誰のものか分からない血の味に、宗近は静かに震えた。 ──敵兵が近付いてくるのが分かる。宗近は羽織を脱ぐと、その上にそっと藤定を横たわらせた。 自分の使命はもう分かっている。 茂みから敵兵が飛び出してきた。 「貴様!我楽の者だな、今すぐ武器を捨てて……その家紋、もしやそこにいるのは神津藤定か!?これは運がいい……その首、貰うぞ!」 宗近達を見つけた敵兵は十数人。全員が刀を構えた。 「我楽当主神津藤定が側近、長尾岨宗近。藤定様には指一本触れさせん…いざ、参る!」 そう叫ぶや、宗近は藤定を庇うように前へと躍り出た。 「ふっ、一人でなにができる!斬り捨ててやるわ!」 敵が四方から攻め込んでくる中、宗近は次々と斬り付けていった。あっという間に半分ほどに数を減らすと、敵兵は一瞬怯むもまだ数で押してくる。 「ぐっ…!か、は……っ藤定様に近付くな!」 これまでの戦いで酷使した体で必死に抵抗するも、確実に傷を負わされていく。もう何人斬ったのかも分からない刀には、幾人もの血糊がこびり付き、人を斬れる状態ではなかった。肩や腹を斬られてはふらつく足元を気力で踏ん張らせ、宗近は刀を振るった。 「──っ!くっ、は……はぁ、はぁ…!」 最後の一人を斬ると、同時に宗近はその場に膝をついた。刀で自身を支え、這いずりながらなんとか藤定の元まで戻る。朦朧とする意識の中、淡い青色の集団が近付いてくるのが見えた。味方だ。 「宗近!!お前…っ、これ……!」 二人を見つけた佐久間が宗近の元に駆け寄った。 「遅いですよ……!まったく、貴方という方は…いつもそうですね……」 今更過ぎる援軍に悪態をつく。 「────っ!う、上様……っ!?」 宗近の後、奥の方で横たわる藤定を見て、佐久間は言葉を失った。 「どうか……上様を、安全な場所へ…!これ以上傷付けさせないで、ください……っ!」 宗近は佐久間の腕を掴むと、最後の力を振り絞って藤定を託した。 「……っ!わかった、必ず上様は俺達が護る。」 佐久間の言葉に、宗近は安心したようにその場に倒れ込んだ。 「宗近っ!くっ……全軍撤退!上様を城まで連れ帰る!首は取らせん、上様を死守せよ!」 佐久間は涙を堪えると、全軍への撤退命令を下した。藤定も宗近もいない今、軍をまとめられるのは佐久間だけだった。 振り返れば、寄り添うように眠る二人が。血や砂埃で汚れボロボロだったが、その表情はどちらも穏やかなものだった。
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