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意識が浮上する感覚に、藤定はゆっくりと目を開けた。
(ここは──?…あぁ、確かわしは死んだのだ。ならばここは常世か?)
藤定は桜並木の中に立っていた。先程まで合戦場にいたのだし、そもそもこのような場所は我楽にはない。妙に納得したように歩いていると、誰かに呼ばれた気がした。
「藤定さまぁー!こちらにいらしたのですね!」
驚いて振り返れば、そこには幼い頃の宗近───小夜の姿が。こちらに走ってきている。
「お小夜!?何故ここにおるのだ?」
「何を仰いますか、小夜はいつでも藤定さまのお側におりますよ?」
「そういうことでは───」
不思議そうに小首を傾げる小夜に手を伸ばした藤定はそこではたと気づいた。伸ばした手を見ればいつもより一回り小さい。自分も若くなっているのだ。着ている着物も違う。この着物は元服する少し前のものだろうか。
(常世というのは、随分面白いことをしてくれる──。)
死というのも案外悪くないのかもしれないと考えていると
「あ!そうでした。藤定さま、行きましょう!」
小夜が思い出したというように顔を上げて、やや興奮気味に乗り出してきた。
「何処に行くというのじゃ?」
「あちらです!小夜にも分かりませぬが、あちらの方に行けば何か良いものがあるように思うのです。」
あちらと、小夜が指す方にはずぅっと遠くまで桜並木が続いている。
藤定は暫く考えて、あぁと合点がいったように頷くと小夜の手をとった。
「良いぞ、行こうではないか。おぬしが供してくれるのであろう?」
握った手に力を込めれば、小夜は恥ずかしそうにはにかみながら「はい!」と、藤定の手を握り返した。
「のう、お小夜よ。わしのことを好いておるか?」
隣に並ぶ小夜に藤定は問い掛ける。
「はい!小夜は藤定さまが大好きにございます!」
臆面もなく言うその言葉に
「そうか、そうか。わしも好いておるぞ。」
藤定は満足そうに頷いた。
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