死がふたりを結ぶまで

3/22
前へ
/22ページ
次へ
「やはり、このままでは時間の問題か……」 藤定は自室で目を通していた書状から顔を上げた。 文句を言ってから宗近は諦めたのか、最近では選択を迫られる書状も増えた。それでもまだ簡単なものではあるのだろうが、国の問題を解決することこそ当主の務めだと、藤定は思っている。例え小さな問題だとしても、自らが成すべき事なのだ。 「上様、どうかなさいましたか?」 普段は滞りなく次々と処理していく藤定が唸るのを見て、よっぽどの問題が起こったのだろうかと側で仕えていた小姓の一人が心配したように声を掛けてきた。 「あぁ、なんでもない。それよりこれを。急ぎの書状じゃ、長尾岨の所に持って行っておくれ。」 小姓は軽く頷くと、藤定から渡された書状を持って席を立った。それを見送ると、藤定はふぅと小さく息を吐いた。 一揆の兆し、治安の乱れ、捨て子の増加。どれもこれも国内での小さな問題に過ぎないのだが、藤定を悩ませるには十分だった。まだ大事にはなっていないものの国民の不満と共にそれらは日毎に増えている。 藤定が武力放棄を掲げたことで、いつ他国からの侵略が来てもおかしくはないという不安は藤定に対する反感を募らせるばかりであった。 (わしはただ平和な世になればと望んだだけなのじゃがな…) 実際の所、戦が無くなったことで徴兵制度は消え、死亡者数はぐっと減った。有り余るほどになった男手はその分国の経済を回す一手となり、我楽は今までに無いほど財政的にも安定していた。 しかし、 先代の時から問題になっていた捨て子対策として、捨て子を集めて食事等の世話や読み書きを教える施設を作ったのはいいのだが、これで安心してか余計に捨て子が増える始末。財政的な問題は無いものの、これでは根本的な解決にはならない。子を捨てた親に対しての罰則はもちろんある。たが数が多くてとても裁ききれたものでは無いのが現状だ。生活が困難になるはずは無いのだが、租税を下げてもそれは変わらなかった。また、豊富な財源を持つようになった我楽に目をつける国も現れ、領地を明け渡した際に交わした我楽を侵略しないという形だけの口約も、もういつ破られてもおかしくないものだった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加