死がふたりを結ぶまで

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「上様?こちらで何をしていらっしゃるんですか?」 仕事を終えた宗近が自室へと戻ると、そこにはどこかソワソワした様子の藤定の姿が。 「長尾岨…っ、な、なんでもないのじゃが…その、たまたま通りかかったからの、ちと様子でも見ようかと……。」 宗近に声を掛けられたのが予想外だったのか、藤定は妙に狼狽えている。心無しか顔も赤い気がするのは気のせいだろうか。 様子見と言うなら鯉だろうか?しかし藤定はずっと部屋に篭っていたので、そこからなら自分の部屋の前など通らないはずだ。 宗近は暫く考えて、まさかと思いつつも尋ねてみた。 「もしかして、私の様子ですか?」 「っ!…………そうじゃ。おぬしは何かに集中すると周りが見えなくなるからな、顔を覗くだけならできるかと思うたのじゃ。なのに部屋にはおらぬし……」 今度こそしっかりと頬を染めて、ただの思い付きだと言い訳をする姿に宗近は自分の顔にも熱が集まっていくのを感じた。なんと可愛らしいことをするのだろうか。宗近は緩みそうになる頬を慌てて引き締めた。度々このように愛らしいことをしてくるものだから、つい理性が揺らぎそうになる。藤定が当主となった時にこの気持ちは一生秘めていこうと誓ったというのに。 「申し訳ありませんでした。少し、部下に指示を出していたもので。」 宗近は務めて平静を装い、答えた。 「良い、急に来たのはわしじゃからな。」 藤定も落ち着いたようで、表情もいつものにこやかな笑みに戻っている。 宗近は藤定の物言いたげな表情に次の言葉を待っていると、藤定はにこにことしたまま、ずいと近寄ってきた。 「っ…!?」 突然の事で反応が遅れ固まってしまう。それにしても顔が近い! 「…ほんにおぬしはいつ見ても美しいのう。幼き頃から愛い顔立ちをしておったが、近頃はますます男前になった。」 藤定は目をすぅと細めると、先程とは違った妖しく色めき立つ様な笑みを浮かべる。 まずい。このままでは─── 「上様ー!あぁ、良かった。お願いですから、私たちに何も告げずにどこかへ行かれるのはお辞め下さい!」 肌が触れるか触れないかという瞬間、藤定を探しに来た小姓が二人の姿を見止めて安心したようにこちらへ走ってきた。宗近は慌てて藤定から離れる。 「すまぬ、すまぬ。ちと外の空気を吸いたくてのう。」 当の藤定といえば、何事も無かったかのように小姓の方を向いて、半べそな小姓の頭を撫でながら謝っている。 「では長尾岨、邪魔したな。」 「いえ。ですが今後は周りの者に告げてから出歩いて下さいね。」 「わかっておる」 藤定が小姓を連れて行ってしまうと、宗近はその場に座り込んだ。 (まったく………貴方様という方は……) こういう所はまだまだ勝てそうもないと、宗近は赤くなる顔を扇ぎながら深い溜息を漏らした。
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