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「話は聞いてたけど、すごいな」
恵美須町駅の階段を登り終えた僕・海斗は思わずそう漏らした。すると、
「そうね。今年も去年以上に人でごった返してるわね」
奏は車道にぎゅうぎゅう詰めになって流れている人の群れを呆然とした顔で眺めている。
ここは大阪市のランドマーク・通天閣から歩いて20分ほどの場所にある日本橋商店街。戦後ラジオ向けの工具等を販売する店舗がこの界隈に現れたことがきっかけで発展した電気街だ。現在はそういった電気店のみならず、アニメのキャラクターアイテムやゲームソフト、カードゲームの販売店や同人誌の専門店などが所狭しと立ち並んでいる。『東の秋葉原、西の日本橋』と言う人もいるほどのこの街にはメイド服などのコスプレをした若い女性が店舗の宣伝のために立っていることも珍しくない。今や日本橋は電気街の面影を残しつつもサブカルチャーの拠点として個性を発揮する街となっているのである。
冬将軍が過ぎ去って桜の足音がすぐそばに聞こえ始める3月。この日本橋には毎年1日だけ『特別な日』がやって来るのだ。
「ストフェス、今年も盛り上がってるみたいね!さ、早く行こう!」
奏が僕のシャツの袖口をぐいっと引っ張る。
「おいおい、ちょっと待て!」
僕がそう発するのを聞く間も無く、奏は日本橋のメインストリートまで僕を引っ張っていった。
奏が言うストフェスとは、今日行われている『にっぽんばしストリートフェスタ』のことだ。2005年より年に1度、3月に開催されており、この日は全国からコスプレイヤーが集まってその姿を披露している。コスプレイヤー、撮影者、見学者など参加者は年々増加し、今や20万人以上を動員するサブカルチャー系の一大イベントとなっているのだ。
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