1. ポケットティッシュ

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1. ポケットティッシュ

普段、ほとんど乗ることのない電車に揺られ、 普段、ほとんど降りることのない駅に足を一歩踏み出す。 良かった、ちゃんと無事についた。 高校生にもなって、電車に緊張している僕はほんとに恥ずかしいと思う。 だって、しょうがないじゃないか。 電車に乗ったことがないんだもん。 4月の初め。駅の外へ出ると、 桜の木々達がゆーらゆーら風になびき、揺れていた。 その風と共に花粉も飛んでくる。 なるべくマスクに花粉が侵入しないよう、鼻先を抑える。 落ちている桃色の花びらが、 通り過ぎゆく人達に踏まれ、茶色く変色している。 それを酷いなとか可哀想などとは思わない。 皆だってそうだろう? 僕だってそうだ。 きっとそういう運命ってやつ。 よくありがちなやつ。 またゆーらゆーら風が吹き、木が揺れる。 桃色の花びらが僕をめがけ、一斉に宙を舞う。 パーカーの袖に付いた花びらを摘んでみる。 前から思ってたけど、桜の花って白だよな。 遠目から見れば桃色なのに、間近で見ると白色だ。 不思議だ、不思議。不可思議事件。 このテンポが最近の流行り。 あっ僕の中だけのね。 わざわざスマホで調べる程、桜の興味はないけど。 そんなどうでもいいことを考えて、 現実逃避をしてしまっている僕は、これから通う高校に向かわなくてはいけない。 今日が入学して初日の日なわけで、新しい生活の始まり。 そりゃまぁ、学生だろうと社会人であろうと初日は皆、緊張するであろう。 その中の一人が僕であるっていうだけの話。 ここから学校までの道のりは、 徒歩十五分弱。単純に真っ直ぐだ。 信号を二つ渡って、ただ一直線。 裏道とかくねくねしてる分かりにくい道だとかそんなことは全く無い、いわば味気のないシンプルな道。 僕は一つ目の信号機を目指し、重たい足をゆっくり動かした。
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