信じてくれ

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信じてくれ

 人生の最期に、私はやらかしてしまった。  生前は、浮き名を流して、妻に苦労をかけた。  実際のところ、結婚生活の後半に、私は妻に対して少しの愛情もいだいてはいなかった。  しかし、それでも添い遂げてくれた妻に、最後の最後にそれなりの情が湧いた。  そこで私は人生の最期に、妻に嘘をつくことにした。 「あなた、しっかりして!」 「今まで……ありがとう……。愛していたよ…………メアリー」 「メ……アリー?」 ───しまっ……た……。  名前を間違えたことに気がつくのとほぼ同時に、私はこと切れた。  本当に、間違えただけなんだ。
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