数えたいんです

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数えたいんです

 大事な約束のあるその日、まだ勤めて日の浅いスタッフが着付けを失敗して、やり直したために、私は待ち合わせ場所へ電車で急ぐはめになった。  車内ではドア付近に立ったカップルがイチャついていた。男が女の子の髪をいじりながら、言った。 「お前、ほんと髪多いなあ。何本あるんだ?」 「えー、わかんなぁい。今度数えとくねー」  言ったな? 絶対、数えろよ?  私は八つ当たりの視線をカップルに投げてから、下車した。  タクシーをやめて電車にしたお陰で、待ち合わせ時間に十分間に合った。9月に入って急に涼しくなったお陰で、心配した汗もかかずに済んだ。  歓談中、時折聞こえてくる鹿威しの音を、私は好ましく感じていた。視界に入る日本庭園もすばらしい。 「じゃあ、しばらくお二人だけでお話を」  相手側のお母様が言って、親たちが退席した。つまりは、見合いの席なんである。  二人きりになると、私はさっそく、ずっと言いたかったことを言ってみることにした。 「あの……」 「はい、なんでしょう」 「髪の毛、数えさせていただいても、よろしいですか?」  カコーーーン…………  秋風がふいに吹き抜けて、毛和多氏のかなり数えやすそうなバーコードを、ふわりと舞わせた。  生田友子、101回目の見合い、破談。「どうせまた、自業自得でしょ」と、友人たちは愚痴も聞いてくれない。
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