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「では、お母さま、行ってまいります。」
私は、母に挨拶をして、クラウス様の待つ広間へと戻った。
「クラウス様、お待たせいたしました。」
私はクラウス様に続いて馬車寄せに向かう。
御者が馬車の扉を開けて踏み台を置いてくれると、クラウス様が私の手を取って馬車に乗せてくださる。
クラウス様は、私の向かい側に乗り込み、馬車は静かに動き始めた。
クラウス様と私を乗せた馬車は、ミュラー邸を出ると、のどかな田園地帯を抜け、シュテファン王国の首都として繁栄する国王陛下直轄領へと入る。今回も王宮の跳ね橋を渡り、城門を抜け、荘厳な建物の数々を通り過ぎて、ようやく王城へと到着する。
王城に着くと、先に馬車を降りたクラウス様が手を差し出してくださり、私はその手に支えられて馬車を降りる。すると、クラウス様は、まるで勝手知ったる我が家と言わんばかりに、颯爽と歩いていく。私は慌てて、クラウス様に続き、緊張と共に城へと入った。
今日は、先日の大広間とは違い、随分と奥へ、上へと進んでいく。
「クリスティアーネ嬢、どうぞ。」
細かなレリーフが施された随分と豪奢な扉の前でそう言われ、私は足を止めた。そして、クラウス様によって開かれた扉の中へと足を踏み入れる。
無数のクリスタルがぶら下がるシャンデリア、金彩を施された猫足のテーブル、ダマスクス織のソファーなど、目が眩むような美しい家具の数々に、私は目を見張った。
思わず、入り口で立ちすくむ私を置いて、クラウス様は、部屋の奥へと歩を進める。
よく見ると、煌びやかな装飾の部屋の奥には、もう一つ扉がある。
クラウス様はまっすぐそこへ向かい、その扉も開いた。
私も慌ててついていく。
奥の部屋には、百合の花の模様を織り込んだ美しい天蓋付きのベッドがあり、周りには医師や看護師と思しき人たちが取り巻いている。
「どうぞ。」
クラウス様に促されて、ベッド傍に歩み寄ると、そこには私と同い年くらいの女性が横たわっていた。
驚くべきはその容貌。
髪の色こそダークブラウンだけれど、顔立ちは私と瓜二つだった。
「クラウス様、この方は………?」
「フロレンティーナ・アレクシア・フォン・
シュルツ王女殿下であらせられます。」
王女殿下…
この方が…
「実は、この事は他言無用に願いたいの
ですが… 」
とクラウス様は前置いて話し始める。
「王女殿下は、現在、服毒により昏睡状態に
陥っていらっしゃいます。」
「え? なぜ?」
驚いた私は思わず、素直な疑問が口をついて出てしまった。
「気づいたらこの部屋で倒れて
いらっしゃったので、詳しいことは分かり
兼ねますが、おそらくは、何者かに毒を
盛られたのではないかと推察致して
おります。」
「そんな… 」
国王陛下の娘として何不自由ない生活をなさっていらっしゃると思っていたのに……
この国の誰よりも幸せなのだと思ってたのに……
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