金曜日のライ麦パン

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 毎週金曜日に、ライ麦パンを一つ買う。  やや酸味のある濃厚な麦の味わいは、淡い恋心とともに、わたしの身体の中にどんどん降り積もっていく。  それは、まるで遠く離れた伴侶のもとまで光の橋をかけるために、空の上でせっせと星屑を集める、フィンランド版織姫のようであると思うのだ。  金曜日。カシオの腕時計は、午後五時二十七分をさしている。  普通乗用車が三台も停まればいっぱいになるささやかな駐車場は、すでにたくさんの自転車の無法地帯となっていた。さながら、複雑に組まれたスチールのオブジェのようである。  陣地を奪われた形の軽自動車のほうが、敷地をはみ出して路上に停めるはめになっている。この辺り一帯の道路は駐停車禁止だ。車の持ち主には、すぐそばに屹立している道路標識が目に入らないのだろうか。  夕方になっても一向に勢力が衰える気配がうかがえない、夏の太陽光が、それらをじりじりと焦がすように照らしていた。 『ブーランジェリー・クドー』  商店街のいちばん奥にある、白を基調とした、四角いパンナコッタを思わせる外観の、シンプルながらおしゃれな店舗。  正面の自動ドアにさげられた、店の名前が書かれた赤いタペストリーが臨める場所に、わたしは立っていた。駅から走ってきたために、汗だくだ。
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