真貴side

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真貴side

まずいな、と思う。 本棚の間に消えていく背中を無意識に追っていたことに気づいて、無理矢理視線を反らした。 木南のことはもともと気に入ってはいた。 来栖に言い寄られたのを撥ね付けたあの瞬間。その姿から目が離せなかった。 一方的な命令など受けない、グレアにも屈しないその姿を気高いと思った。 風紀で護衛するようになり、よく接するようになってからもその好印象が崩れることはなかった。庇護されることを当たり前と思わず、Domと対等であろうとする。見ていて気持ちがよかった。 昔から俺はSubというものが好きではなかった。Domはその性質上Subを従えようとし、SubはDomに媚びへつらう。その図式が嫌いで、気持ち悪ささえ覚えていた。 Subに言い寄られることが多かったのも原因かもしれない。命令してくれと言うSubを受け入れられなかった。何度試しても満たされることはなかった。 その辺りで俺は自分の性質に気がついた。俺はSubを従え、命令して満たされるのではなく、守り、甘やかすことで満たされる質なのだと。 しかし己の全てを持ってして守りたいなんて思える相手は早々見つかるものでもない。別に焦ってもいなかった。 でも、見つけてしまった。 最初は心地いいと感じた。 木南を護衛するうちに、お互いの趣味が似通っていることに気付き、よく話すようになった。木南は頭の回転がよく、話していて楽しかった。俺のお気に入りである第二図書室に連れていってやるくらいには気に入った。 短い間に、親しい友人として数えるほどになった。 しかし、しばらく立つと自分の変化に気がつき、愕然とした。 木南に「ありがとう」と伝えた時、あいつが嬉しそうにしているのを見てふっと体温が上がった。無意識にDom性が満たされたのを感じた。 放課後、木南を迎えに行くと少し表情が綻ぶ。それにも満たされる。 そして同時に飢える。 もっともっとと体が叫ぶ。 まずいな、と思う。 あいつはどう考えてもDomが嫌いだろう。Sub扱いされることに嫌悪感を抱いているのではないかとさえ思う。 そんな相手にDom性を欠片でも見せてしまえば確実に距離を置かれる。 俺は飢えを叫ぶ体を無視した。そうしてでも距離を置かれることを避けたかった。 DomとSubであること以前にあいつと過ごすことは楽しく、居心地がよかったからだ。 目を閉じる。視界から華奢な背中が消える。体の中を燻る本能も消えればいいと思った。
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