Subの運命

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俺たちのクラスは順調に勝ち進んで、次は準々決勝。さっきの試合で木島は華麗にダンクを決めていた。そのせいで一緒にいると熱い視線がうるさい。木島に文句を言うと呆れた顔をされた。 「俺もだけどお前もだろ?3人抜きなんか決めやがって」 お互いげんなりしながら昼食を食べ終え、再びコートに向かう。 コートの回りにはまだ試合が始まってもいないのに、なぜか人だかりが出来ていた。 次試合の相手を確認してすぐ納得する。 なるほど、次の試合相手は3年生。誰か役持ちでもいるんだろう。 俺の手のメンバー表を覗き込んできた木島がうわぁと顔をしかめる。 「次の相手、生徒会長だ」 『えっ?どれ?』 「これ」 木島が指で示したのは来栖蓮司という名前だった。来栖蓮司、口の中で名前を転がす。会うことはないだろうとたかをくくっていたのに思いの外早い再開だ。 試合中にグレアを発することはスポーツマンシップにそぐわないのでさすがにやらないだろうけど、なるべく会いたくなかった相手だ。出来るだけ接触しないようにしたいが種目はバスケ。…何事もなく終われますように。 祈りも虚しくなんと俺のマークは生徒会長様。思わず舌打ちをしてしまった。 バスケは接触プレイがどうしても多くなる。肌が触れる度にぞわっと悪寒が走る。俺は生徒会長とどうもダイナミクスの相性が悪いらしい。入学式の微量なグレアであそこまで気分がわるくなったのもそのせいか。絶不調の俺とは正反対に、生徒会長は華麗なプレーを繰り出す。これだから嫌なんだ。煽りを食うのはSubばかり。 相手にはバスケ部員がいたらしく、木島やチームメイトの奮闘虚しく俺たちは負けてしまった。最後の最後に役にたてなくて申し訳ない。 試合終了の挨拶をしてさっさとコートに背を向ける。木島と連れだって体育館を後にしようとしたその時。 ぐいと腕を後ろに引かれて俺はつんのめった。 振り返って相手を確かめようとしたその瞬間。捕まれた腕から這い上る悪寒。 生徒会長…出ない声で思わず呟いた。 「ちょっと待て」 『俺に何の用ですか』 震えそうになる指を叱咤して文字を打ち込んでスマホを突きつけると相手は怪訝な顔をした。 「こいつ声が出ないんです」 代わりに答えてくれた木島の言葉に頷く。 「そうだったのか。やけに静かなやつだとは思っていたが」 何か納得した様子で俺を見る生徒会長。その低い声にまでぞわぞわして俺は必死に平静を保った。入学式の挨拶のせいで俺はこの人の声までも害だと認識してしまっているらしい。 「声が出なくとも問題はない」 「何がですか」 嫌な予感がする。木島が何かを察したらしく固い声で代わりに問い返してくれる。生徒会長はそれを完璧に無視した。教えてくれ、一体何に問題がないんだ。お前に何の関係がある。何だって言うんだ。頼むから離してくれ、頼むからこれ以上何もしないでくれ…! 「お前Subだな?」 『そうですが、それが何だって言うんですか?』 俺がSubか否か。それを聞くだけならこんなところで引き止めてまで言わなくてもいい。この先に続くだろう言葉を聞きたくなくて、耳を塞ぎたくなった。でも捕まれた手がそれを許さない。 「お前、俺のSubになれ」 その残酷な言葉は俺を容易く過去に引き戻した。 …神様、俺が一体何をしたって言うんだ。
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