琥珀のボトルを運ぶだけ

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一  ようやく機内に搭乗したわたしは、手荷物のトランクケースを座席の上の棚に押し込めた。  中身はスカスカだ。  非力なわたしでも、簡単に持ち上がる。  身軽になったわたしは、エコノミークラスのシートにゆっくりと身を沈めた。    ……本当は、わたしは飛行機があまり好きじゃない。    さっさとこの仕事を終えて、日本で新しい生活を始めるのだ。  報酬で得られる、まとまったお金とともに。    薄手のコートを着たまま、ポケットから封のされた透明なパックを取り出した。  中には、きちんと手続きを踏んで持ち込んだ、ガラスのミニボトルが入っている。  澄み切った琥珀のお酒が詰められた、未開封のミニボトル。 「……琥珀のボトルを運ぶだけ」  ビニール越しに小瓶を見つめ、わたしは小さくつぶやいた。  同時に、ここまでの出来事を思い返してみる。  端緒に付いたばかりの、この役割のここまでを。  ――ことの発端は、お金だった。
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