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「ち……ちょっと!」清志が叫びながら左手を引き抜こうとしたが、岩倉に掴まれた左手はびくともしなかった。 「静かにしろ。痛くはないだろ?」ナイフの刃先を器用に動かしながら岩倉が言った。  確かに痛くはない。刃先に麻酔薬が塗られているのか、痛みよりも痺れを感じた。  だが、教師である岩倉が、生徒の手にナイフを突き刺すとは何事だ!?  貧民層の住む東海ブロックであるとは言え、無法地帯な訳ではない。むしろその逆で、貧民層は労働と消費、そして娯楽で管理された家畜なのだから、家畜であるが故に治安は厳重に守られていた。  岩倉は清志の左手の親指の骨と、人差し指の骨の交差する付近にナイフで切り込みを入れると、そこから薬のカプセルに似た物を取り出して、清志の手首を離した。 「済んだぞ。瑞希、こいつの手を消毒してやれ」 「ちょっと待てよ!それIDじゃん!」穏やかな性格の清志にしては、珍しく血相を変えて岩倉に詰め寄った。ソニアは清志の肩の上で、燃え盛る炎の精霊のような姿に形状を変えて成り行きを見守っていた。
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