10/14
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/243ページ
 岩倉が清志の左手から取り出した物は生体認証と個人情報の入ったマイクロチップであり、体内への移植が義務付けられた物だった。  人々はIDによって完全に管理をされていると同時に、マイクロチップを個人が持つモバイルとリンクさせることを前提に、貨幣は撤廃されてしまった。つまり、IDとモバイルが無ければ物を買うことも出来ない。 「ごめん。新しいIDは用意してあるから、今は我慢して」そう言いながら瑞希が清志の手に消毒液を振り掛けると、手慣れた手付きで包帯を巻きだした。 「新しいID?」尋ねながら清志は瑞希の右手の感触が、やはり冷たいのだと実感していた。  瑞希の左足は膝下が義足。右手の肘から先が義手であり、トランスヒューマニズム格闘技と言うのは、身体のどこかにメカニカルなパーツを持つ者同士の格闘技で、貧民層には大人気の娯楽だった。 「さっきは、助けてくれてありがとう」清志が礼を言うと、瑞希がわずかに笑みを浮かべて首を横に振った。  先程の、瑞希の常人離れした蹴りは、瑞希が義足であるが故のものであったが、トランスヒューマニズム格闘技は競技人口も爆発的に増殖中で、その人気の背景には、トランサーと呼ばれるプロになればランクBに格上げされると言う魅惑的な条件があったからだ。  清志が瑞希をリスペクトしているのは、高校卒業後はトランサーを約束された瑞希の圧倒的な強さと、その強さを後押ししているであろう、瑞希の心の強さに心酔したからであり、瑞希はそのルックスも相まって、一部の間では既に絶大な人気を集めていた。  
/243ページ

最初のコメントを投稿しよう!